大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和50年(あ)1619号 決定 1975年10月14日

本籍

兵庫県飾磨郡家島町真浦七二六番地

住居

同 県西宮市浦風町六番四号

会社役員

中野秀吉

昭和六年六月七日生

本店所在地

兵庫県飾磨郡家島町真浦七二六番地

法人の名称

家島建設株式会社

右代表者名

代表取締役

中野秀吉

右両名に対する法人税法違反各被告事件について、昭和五〇年七月一一日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人平井卓二の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 本林譲)

昭和五〇年(あ)第一六一九号

上告趣意書

被告人 家島建設株式会社

同 中野秀吉

右両名に対する法人税法違反被告事件について貴庁に上告した趣意は左記のとおりである。

昭和五〇年九月一九日

右両名弁護人 平井卓二

最高裁判所

第二小法廷 御中

原判決は次の理由により、刑の量定が甚しく不当であつてこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるので原判決を破棄するのが相当である。

一、刑事訴訟法が控訴審を事後審としながら一旦控訴審で事実の取調をした以上同審で取調べた証拠をも量刑の資料として判決すべきものであることは学説、判例上異論のないところである。

しかして国税の脱税事犯は納税義務の不履行によつて直接に国の租税請求権を侵害し国に財政的損害を被らしめる犯罪である。従つて犯行後その逋脱した租税を納付し右財政的被害の減少、補填に努力したかどうかは、この種事犯の罪状を認定し刑を量定するうえにおいて最も重要な資料であることは多く論ずるまでもないところと考える。

二、被告会社は、原判決認定のとおり、昭和四六年度の法人税五、六〇九万一、一〇〇円を逋税したものであるところ、証拠で明らかなように、第一審の結審当時までに三、〇〇〇万円を納付し、さらに右以後控訴審の結審までに

49・12・10 二〇〇万円

50・1・17 四〇〇万円

50・2・18 四〇〇万円

50・3・18 三〇〇万円

50・4・17 六〇〇万円

50・5・16 一、二六〇万八、九〇〇円

小計 三、一六〇万八、九〇〇円

合計 六、一六〇万八、九〇〇円

を納付し、本税について分割納付を認められその際国税当局に差入れの手形全部の決済を終えたものである。

なお、重加算税についても本年八月に分割納付の協議が調い次第これを納付することになつている。

従つて、被告会社は第一審の結審以後控訴審結審までに、三、一六〇万八、九〇〇円を納付して本件逋税額の本税全額を補填したわけである(控訴審において立証ずみ)。

しかも本件脱税の主な手口は証拠で明らかなように四七年度に損金として計上すべき工事代金(四六年中に支出したもの)を四六年度に計上した、いわゆる工事費の先き取りであつて、全く存在しない架空の経費を計上して税を免がれんとしたものと類を異にしてその罪質極めて酌量すべき案件であつて同種前科もないものである(原審における弁論要旨参照)。

三、要するに、被告会社は赤字財政にかかわらず控訴審において逋脱税額の半ば以上を納付しているもので、これは第一審以後の重要な新らしい情状資料であり、これを看過し無視することは許されないところであると考える。

しかるに第一審判決を相当として本件控訴をたやすく棄却した原審控訴の判決は甚しく刑の量定不当であつて、国民感情を無視したものであり、著しく正義に反するものであるから破棄を免がれないものと信ずる。

記録ご精査のうえ納得のいくご裁判を賜わりたい。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例